2017有頂天家族2森見登美彦インタビュー

 2020年の今でも好きな有頂天家族。先月も原作本を読み返したり。

ちなみにLINEのアイコンは矢三郎です。

 

有頂天家族2森見登美彦インタビュー

「四畳半」とは真逆の作り方がされている「有頂天」

=略=

僕の小説はほぼ全部、内側から書こうとするパターンなので、「四畳半」の方法論はすごく納得がいくというか、自分と近しいものを感じるんですよ。ああいった作り方は、僕が文章で作り出している勢いみたいなものをアニメとして映しやすいと思う。でも「有頂天」の描き方は全然違う。僕はアニメ「有頂天」のような客観的な描き方で小説を書けと言われると、非常に困ると思います。僕は矢三郎にとっての世界というものを、内側から描いていくという形でないと書けないので。

 

──矢三郎が見る天狗であり、狸でありを描いていく。

それが「有頂天」の世界なので、僕は矢三郎の語りという形でしか書けない。小説の場合はそれが全部なんですよね。アニメでも櫻井(孝宏)さんがやられている矢三郎の語りはすごく大事ですけど、あくまでモノローグは要素の一部というか。そこがとても面白いし、吉原監督はよくぞやってくれたなという気持ちです。

 

矢三郎は森見小説の中でも「最もできる男」

──櫻井さん演じる矢三郎のモノローグも、「四畳半」のそれとはまた違いますね。

「四畳半」の主人公は、もうちょっと尖っててプライド高くて、包容力はあまり求められてないわけですよね。でも矢三郎は包容力がある。「有頂天家族」の世界って父親が鍋にされて食われたり、おじさんから殺されかかったりとえげつないことがいろいろ起きてるんだけど、なんでギリギリ救われるかというと、矢三郎がその世界を肯定しているから。本来、我々人間の理屈としてこれらの出来事を見たときに「これはないだろ」って思うんだけど、「まあ狸だから」って矢三郎がスルーしちゃうので我々もスルーしてしまうと。そういう矢三郎のスタンスがないと、この「有頂天」の世界は成立しないわけですよ。ちょうど櫻井さんの声はそういう肯定感というのかな、諦めとも違って、流されるんじゃないけど、とりあえず受け入れてスルーしていく感じがとても出ていて。もし櫻井さんの声がもっとトゲトゲしていたり何か打算的だったりすると、世界全体の雰囲気が変わってしまって、起きる出来事の意味合いも見てる人にとっては変わって感じられると思うんです。そこはやっぱり、櫻井さん頼みなところがあるはずですね。

 

──矢三郎は安心して見ていられるというか、どんな困難が起きても彼に任せれば大丈夫という気持ちが湧いてきます。

矢三郎はそこまで悩まないですからね。ちょっとヘコんだりはするけど、うじうじ悩んでないので、我々としては非常に憧れるというか。ひょうひょうとしている割には、やることもちゃんとやる。おそらく僕の小説の中で、最もできる男ですよ(笑)。