「ふたりで飲みに行ったことは一度もない」福山 潤×櫻井孝宏の心地よい距離感
「ふたりで飲みに行ったことは一度もない」福山 潤×櫻井孝宏の心地よい距離感
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僕だけじゃなく、困ったらみんな櫻井さんに頼る傾向にある
いまや多くの作品でご一緒されているおふたりですが、初対面のことを覚えていらっしゃいますか?
福山 初めて櫻井さんと現場をご一緒したのは、おそらく『オフサイド』(2001年)だったと思うんですが。
櫻井 あ~、そうか。サッカーの作品ですね。
福山 あの時期ですよね。ということは18年か19年前になりますが、櫻井さんに対する最初の印象は、「この人が櫻井孝宏か」でしたね(笑)。
櫻井 ははは! ちょっと意味わかんない。何? 悪い噂でも流れてたの?(笑)
福山 いえ、違うんですよ(笑)。当時の僕は、森久保祥太郎、鈴村健一、櫻井孝宏、関 智一、この4人の先輩にオーディションでボコボコにされていたんですね(笑)。だから櫻井さんと現場で会う機会がなかなかなくて…僕は落ちてるから(笑)。
そんな状況が続いていたので、『オフサイド』で初めてお会いしたときに「この人が櫻井孝宏さんか。やっと会えた」みたいな感じだったんです。
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福山さんは20年近く櫻井さんを見てきて、どのように感じていますか?
福山 僕ら声優って、それぞれにトレンドがあって。つまり、「こういうキャラクターには、この声優だよね」って起用されることが多いと思うんです。で、いまの櫻井さんのトレンドって、僕が出会った頃とは全然違うタイプのキャラクターだったりするんです。それは僕にも同じことが言えます。
ただ、その変わっていくトレンドの流れに、櫻井さんは大変スムーズに乗っている印象があるんです。僕の場合はトレンドが突然90度変わったりするんですが…少年キャラから変態キャラへとか(笑)。櫻井さんは、これまでのトレンドを積み上げていって、いまのトレンドに至っている印象がある。そういった方って、あまりいないと思うんですね。
起用する側もそこを期待して、想定して、櫻井さんにお願いしているんでしょうね。あと、なんだかんだ言って、包容力がある。
櫻井 「なんだかんだ」って(笑)。
福山 僕だけじゃなく、困ったら櫻井さんに頼る人が多いんです。意見の拠り所を求めたり、吸収してもらったり。あるいは、櫻井さんが先頭に立つケースだったら、みんながそれに従うんです。そういった“周りから頼りにされている人”という印象は、初めてお会いしたときから変わらないですね。僕が真似できることでもないし、似たような方もあまりいないと思います。
でも、櫻井さんとしては「俺に続け! 俺を頼れ!」みたいな感じではないんですよね?
櫻井 ええ、嫌ですね(笑)。
福山 本当にそういうタイプではないんですが、たまに櫻井さんが先頭に立ってツッコんでいくと、みんながスリップストリーム(高速走行中の車両の背後に、気流の働きで生じる気圧の低い領域のこと)に入るんですよ(笑)。
櫻井 僕個人の印象ですが、最近は時代も含めて「for me」な人が多い気がするんです。でも声優って「for the team」の仕事でもありますよね。作品ファーストで考えると、まずは監督やプロデューサー、画を描く方たちがいて、我々声優なんて全然下のほうなので。
だから、できるだけ現場を柔らかくしたいという気持ちではいますね。それって福山くんも似ているところがあると思うんです。たとえば「え?」と思うような指示があったとしても「わかりました、まずやってみましょう」と。
福山 「やればわかる!」ってね。
櫻井 そうそう。試してダメだったら、「どうしますか?」と考えていけばいいので。「できません」ではなく、「とにかくトライしていこう!」という気持ちではいますね。それが、福山くんがさっき言った、僕がツッコんでみんながスリップストリームに入るっていうことなのかもしれません(笑)。
=略 「ぼくはか」のお話=
「自分らしくいるための秘訣」がありましたら、ぜひ教えていただきたいです。
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櫻井 昔は「どれだけNOと言えるか」かなと思っていたんですよ。僕はけっこうNOと言ってきたところがあるので。たとえば必要以上に期待されたときに、「いや、僕はたぶんあなたが思っている感じではないですよ」とハッキリ言うようにしていたんです。
それが積み重なった結果、“自分らしさ”になっているんだと思いますが…そうやって仕事でできあがった僕というのは、本来の僕よりもかなり図体が大きいんです。本来の僕はモブみたいな人間ですから(笑)。そんな僕が背伸びをして、自分を大きく見せながらがんばってきた結果が、声優としての僕なんですね。
でもそれって、作品とキャラクターがあったから、っていうだけなんです。
そうやって、「本来の自分」と「仕事の自分」のギャップを重ねながらこれまでやってきたので、結局「何が自分らしいか」「自分らしくいるためにはどうしたらいいか」って…正直なところ、答えが難しい部分がありますね。
おふたりが2020年に挑戦してみたいことはありますか?
櫻井 僕はオリンピックの仕事がしたいです。一生に一度であろう東京で開かれるオリンピックに、どんな形でもいいから、仕事で関わりたい。「トイレはこちらです」みたいなアナウンスでもいいので、声という武器を生かしたいですね。
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ふたりきりで飲みに行ったことは一度もない
おふたりの共演といえば、福山さんのシングル『KEEP GOING ON!』とアルバム『OWL』のコントパートに櫻井さんが出演されたことも印象的でした。
櫻井 あ~、ありましたね。出演させていただきました。
福山 それまでの関係性を、存分に利用させていただきました(笑)。櫻井さんが司会で、僕も登壇した現場がありまして。「司会ってことは、たぶん誰よりも早く現場に入っているだろう」と予測して、僕も早めに入ったんです。それで、櫻井さんが台本に集中している隙に「ちょっとこれに目を通してください」って、プロットを渡して。
櫻井 「あ、うん」って、とくに疑問に持たずに受け取りました。「こういうのやるんで、よかったら出てもらえませんか?」、「あ、うん、わかった。出る出る」って(笑)。
福山 判断がつかないうちに、既成事実を取りつけまして(笑)。
福山さんとのモノ作りはいかがでしたか?
櫻井 僕は人付き合いに対して、そんなに積極的ではないんです。身を守る術ではないですが、四方八方に「なんでもやるよ!」みたいに言うようなタイプではなくて。それでも福山くんの仕事を引き受けたのは、無理を承知で変なことを押し付けるような人ではないから。僕もおもしろいと思えるようなことしか持ってこないんです。しかも、事前にきちんと段取ってから持ってきてくれるので、ありがたいですね。
僕は福山くんのチャレンジングなところや、開拓者精神みたいなところが好きなんです。あまりみんながやらないような、リスクのあることにチャレンジする傾向があるというか。
福山 自殺願望ですね(笑)。
櫻井 そこまでは言ってないから(笑)。僕はそんなに刺激を求めるタイプではないので、彼のそういったチャレンジングな部分って僕にはないんです。だから、声をかけてもらって一緒に何かを作るのは…それこそ、スリップストリームに僕が入る感じですよね。福山 潤を風よけに立たせて(笑)、その後ろで僕が「お~、おもしろいな」って。そういう気分でいます。
勝手なイメージですが、親しいながらも絶妙な距離感があるのかなあと思います。
櫻井 そうなんでしょうね。
福山 たぶん、プライベートの付き合いがほぼないからだと思います。
そうなんですか!?
櫻井 ほとんどないです(強い口調で)。
福山 プライベートで飲んだのって、たぶん一度だけですよね? ふたりきりじゃなかったですし…ふたりで飲みに行ったことは一度もないんですよ。
櫻井 福山くんとふたりで飲みに行ったら、たぶん、ちょっと緊張しちゃいますもん(笑)。
福山 僕は根本的に、プライベートで同業者に会わないんですね。連絡先をあんまり教えないので。“なあなあ”にならないのがいいかなと。相手を勝手に信頼・信用してしまうと、人間関係って崩れちゃうので。僕はそれが嫌なんです。
櫻井 僕もそれが苦手なんだよね。
福山 その感じをわかって、適度な距離感をとってくださる方って…櫻井さんだけじゃなく、櫻井さんの世代に多いんですよね。“なあなあ”な関係性じゃなくて、明確な距離感で接してくれる。だからこそ、そういった方々に対する信頼が僕は強くて、リスペクトしていますし、ガチで勝負させてもらえる存在でもあるんです。
櫻井 そうだねえ。僕もそういう距離感って、わかりやすくて好きですね。プロっぽいなと思います。